創作文・「美しき日々・・~それから・・~Beautiful days」26

いつになく、元気のないミヒャンのことが気になりながらも、時間だけは過ぎていく。
「どうして、いつもミヒャンは部屋の中ばかりにいるんだ?」
ミンチョルもその様子を気にしていた。
「やけどの傷も薄くなってきたし、痛みは全然ないと言っていたが・・・。」
部屋でドールハウスを使って、独り言をいうように、遊んでいた。
両親以外の言葉を聞こうとしなかった。
テジャでさえも、受け入れられないでいた。周りの大人たちの声が、自分に投げかけられる非難の言葉のように聞こえてくるのだろう。
会社の創立記念とケイン・クラウディオ会長のレセプションの準備が着々と進められた。
ミヒャンとヨンスが着るためのイブニングドレスを新調することにした。
首筋に残るやけど跡は、肌と同じ色の絆創膏でかくし、首周りにやわらかいオーガンジーを飾り、目立たなくした。
そのドレスの採寸と買い物に出た帰り道、ミヒャンは久しぶりに母と噴水のある公園を散歩した。
時々、母の体の調子がいいときには、よく散歩に出ていた場所だ。
暖かい陽だまりは、日陰に残る白い雪さえも溶かすほどであった。
「久しぶりに、ミヒャンとお散歩するわね・・・。
 とてもいい気持ちね・・・・。
もっと、暖かくなったら、パパとお弁当もって、また来ましょう。」
「そのときは、ママが作る海苔巻きがいいな。」
「ええ、たくさん作るわ。
 楽しみが増えて、うれしいわね。」
ミヒャンの心の中で、どうか、その願いがかないますように・・・と祈る思いだった。
幼稚園の運動会や遠足や発表会にも、母が来ることは珍しかった。
人が多い中に長い時間いることが耐えられなかった。
そんな時でも、ミヒャンはわがままを言わずに、テジャやソニの母親代わりで我慢した。
「ミヒャンは、大きくなったら何になりたい?」
ベンチに座り、ミヒャンの手をとり話をした。
手袋をしていても、お互いの手のぬくもりが伝わった。
「私はね! 大きくなったら、絵の先生になるの!
 幼稚園に来ている絵画教室の先生のように、好きな絵をなんでも描いていいよ、といえる先生に・・・。」
とても嬉しそうに空を見上げて話すミヒャンの声が、次には暗くうつむき加減になった。
「でもね・・・私は、パパの会社にお勤めしないといけないの。
 テジャさんのように、パパといっしょに働かないといけないの・・・。」
ヨンスは、思わずミヒャンを抱きしめた。
「そのことを、ずっと気にしていたの?
 いいのよ。ミヒャンの好きなことをしていいのよ。
 ミンジおばさんのように、フランスに行って、絵の勉強をすればいいわ。
 外国にいけるなんて、楽しみじゃない?
 そのときは、ママも遊びに来るわ・・。
 ナレおばさんやミンスクも遊びに来たがるわね・・・。
 そうやって、楽しい夢を見ながら生きていかないと、つまらないでしょう?
 毎日、大きくなったら、何になろうか・・?って、考えるだけでも楽しいじゃない。
 ミヒャンは、まだ5歳なんだから、たくさん夢を見ていいのよ。」
楽しそうに話す母を見ていると、ミヒャンの顔もだんだん明るくなってきた。
「・・・いいの?
 パパに怒られない?」
ヨンスは、顔いっぱいに笑みを浮かべ、頷いた。
「うん! じゃあそうする。
 パパには悪いけど、フランスに行こう・・・!
 でも、パパには内緒よ。
 きっと、お仕置きに地下室にとじこめられるかもしれないわ。」
ふたりは、顔を摺り寄せながら笑った。

手をつないで、家まで歩くことにした。
ゆっくり歩いて、10分ほどでつく。
途中、大通りを横切らなければならない。片道3車線もあるメイン通りを渡ると、閑静な
住宅街に入っていく。
ゆるやかな坂を上りつめると、何件も大きな家が立ち並び、その中のレンガ塀が高く連なるところが、イ家である。
外門のオートロックは、中から解除することもできるが、暗証番号と指紋照合で開閉できる。
石段を登り、庭に出る。
「寒い中、ごくろうさまです。」
ヨンスが声をかけたのは、庭師である。
大きな老木の松の雪吊りをしていた。たくさんの雪が降り積もると、枝が折れてしまうため、紐で固定し、枝が折れないようにするのだ。
ヨンスは玄関に入っていった。
しかし、ミヒャンは鋭い目つきで枝の頂点にいる庭師を見上げるように睨み付けていた。
「嬢ちゃん、なにかようかい?」
枝に片足を乗せ、綱を引き上げていた。
「ママは、死にませんよ~だ!」
そういうと、木に寄りかかっていたはしごを、思いっきり倒した。
「お、おい!何するんだい!! このいたずら娘!!」
ミヒャンは、もう一度睨み返すと、急いで玄関に走った。
「おーい!! 誰か~!! 来てくれよー!!」
松の木の頂上で庭師は、あわてふためいて叫んだ。

また、この日の夜は父のミンチョルに厳しく叱責を受けることになった。
「雪は降らなかったものの、庭師のおじさんはすっかり凍えていたんだよ。
 どうして、あんなことしたんだ?」
なにも答えず、両膝を抱えて、座り込んでいた。
「最近のミヒャンは少しおかしいよ。
 なにか、嫌なことがあるのなら、パパに話してごらん?」
「わざとしたんじゃないわよね? 
 ミヒャン、はしごにぶつかったのでしょう?」
必死にミヒャンを守ろうとするヨンスにさえも、何も話そうとしない。
「もう、いい! 今夜は夕飯たべなくていい。
 ここで、反省していなさい!」
ミンチョルはそういい残すと、無理やりヨンスの腕を取り、一緒にミヒャンの部屋を出た。
「おなかすくんじゃないかしら・・・?」
「いいかげんに甘やかすのはやめにしないか。
 君がそうだから、どんどん言うことを利かなくなるんだ。
 ミヒャンのいたずらには、度が過ぎるところがある。
 悪いことは悪いと、ちゃんと教えないと、大人になってまでも、善悪のつかない子になる。」
夕食後、ミンチョルが部屋に入ってしまうと、ヨンスはホットケーキを焼いて、暖かいココアと一緒にミヒャンの部屋に持っていった。
ミヒャンは、人形を抱きしめて、ベッドと壁の隙間で泣いていた。
「おなかすいたでしょ? ホットケーキを焼いたのよ。」
母の声を聞くと、声を出して泣きながら、ヨンスの胸にすがった。
「ママ、ごめんなさい・・・。
 ごめんなさい・・・ママ・・・ママ・・。」
ヨンスは、ミヒャンの長い髪を撫でながら、抱きしめた。
「ママもね、まだ、夕飯食べていないのよ。
 ミヒャンと一緒に、ホットケーキを食べようと思って・・。
 さぁ、一緒にたべましょう・・。」
ミヒャンは長いこと泣いていたようで、泣きじゃくりながらホットケーキを食べた。
そして、泣きはらした目で母を見ながら、笑った。
ママだけは、私の見方・・・。
「おいしい・・・ママ、ありがとう・・・。」
私も、施設にいるとき、やるせない思いで泣いていたことがある。
布団を頭まで被ると、声を押し殺して泣いていた。誰かにすがりたい・・・その思いは常に心の中にあった。
母に会いたい・・・口に出すこともできずに、ただ泣いていた。つらかった。辛くてたまらなかった。
愛する人ができて、その人の胸の中で泣ける安堵感は、それまでのつらさをすべて取り除いてくれた。

その日の夜、ヨンスは奇妙な夢を見た。
子どもを生んでいる夢だった。
周りに誰もいない、古い家の天井がうっすらと見える。
普通に陣痛が起きているようだが、とくに痛みを感じない。
しかし、生まれてくるその子は、女の子でまだ、へその緒がついているのに、誰も助けてくれる人がいない・・・。
「・・・助けて・・」
搾り出すような声が出た。
隣に寝ていたミンチョルが目を覚まし、ヨンスを見ると、ヨンスは全身に汗をかいていて、苦しそうに呼吸をしていた。
「ヨンス・・・どうしたんだ?」
ヨンスは、高熱にうなされていた。
「大丈夫? ヨンス?」
ヨンスは、ゆっくり目を開けた。
「水を飲む?」
ミンチョルは、サイドテーブルにあるコップに水を注ぐと、ヨンスを起こし飲ませた。
「・・・怖い夢を見たの・・。
 ミヒャンは・・・・?」
「寝ているよ。」
ヨンスは、深呼吸をすると、ゆっくり目を閉じた。
今の夢を思い出した。
生んだのは、私ではない・・・私が生まれたのだ・・・とても、寒かった・・・。
母恋しさのあまり、幻想を見たのだろう・・・。
あのときの、ほんの少しの時間だけが私と母の出会いのときだったのだ。
その後、母は死んだ・・・。
ミンチョルが持ってきてくれた薬を飲むと、落ち着いて再び眠った。
その翌日から、ヨンスは熱を出し、起き上がれなくなった。
「ママ、明日はパーティーよ・・。
 それまで、よくなる?」
「ええ・・大丈夫よ・・・
 風邪がうつるとたいへんだから、そばに来てはダメよ・・・。」
戸口から顔をだして、心配そうに聞いてくるミヒャンがかわいそうだった。
「幼稚園に、行ってきます・・・。」
「うん、いってらっしゃい・・・楽しんできてね・・。」
ヨンスは、優しく笑った。

パーティーの当日、ヨンスは起きることができ、朝食はミヒャンとミンチョルと一緒に食べることができた。
初めての晩餐会にミヒャンは出席するために、朝からうれしそうだった。
「今日は、幼稚園から帰ったら、お昼ご飯を食べて、すぐにお昼寝をするんですよ。
 6時には、テジャさんがお迎えにこられますから、それまでにお風呂に入ってドレスに着替えるんですよ。」
ソニの話もそこそこに、ハンガーにかけられたドレスを触ったり、頬擦りしたりしていた。
「ママは、もう元気だから、今日はパーティーに行けるわよね?」
「さぁ・・・。
 早く支度してください。幼稚園のお迎えが来ますよ。」
ミヒャンが幼稚園に行ってしまうと、家の中が静寂になる。
「今夜は、あまり無理しないで、きついようだったら、休んでいていいから。」
「ええ・・・。
 それでも、ミヒャンがあんなに喜んでいるのをみると、一緒に行って上げたいわ。
 幼稚園の行事にも参加できなくて、あの子には悪いことばかりしてきたわ・・・。
 一緒に公園を歩くだけでも、心から喜んでくれるのよ。
 なんだか、いつも遠慮しながら生きているような気がして、かわいそうで・・・。」
窓からぼんやりと庭を眺めながら話すヨンスの姿が、まるで、ミンチョルの生みの母のように見えた。
まだ、小学生だった頃、母は病気で寝込みがちで、窓から外を眺めながら、よく絵を描いていた。さびしそうに登校していく子供たちを窓から眺めながら、母の思いはどれほどつらく、切なかったのだろうかと今になって痛感していた。

       (27話につづきます。)

댓글 '4'

tsuyatti

2005.12.06 22:33:44

maria chrisさま、こんばんは。
ふーとため息が出ました・緊張して読みました。
ミヒャンがヨンスの言葉で元の元気さを取り戻してホッとしました。
子供にとって母親は一番大事ですもの。
そして続きのお話があるのも楽しみにしています。
ありがとうございました。

genta

2005.12.07 00:58:00

maria chrisさま、こんばんは。
私もtsuyattiさまと同じくドキドキしながら読みました。
前回の様子ではミヒャンちゃんに辛いことがあるような感じがしてたんです。
まだまだお母さんに甘えさせてあげたい、そう希望しているのですが・・・

miharu

2005.12.07 01:09:54

maria chrisさま、こんばんは。
私も、tsuyatti様と同じく、緊張して、息をころして読んでいたのか、
(27話につづきます。)が見えると、ため息がでました。
ミヒャンの純粋な心、ヨンスの母としての愛、
ミンチョルの父としての厳しさ、当たり前の家庭の出来事なのですが、
全てに感動します。
はしごを倒したミヒャン・・・・・
おてんばと言うより、親の愛に守ってもらえながら、
素直な子供に育っている証拠だと思いました。

28話楽しみにしております。

mica

2005.12.07 01:36:03

maria chris様、こんばんは。
先走って、涙が溢れてしまいました・・・
こんなに胸が痛くなることって、他にはありません。
小さなミヒャンも、ヨンスも、ミンチョルも・・・幸せでいて欲しいです。
それぞれの辛い思いが、胸に迫ります。。
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