【코스 様・「美しき日々」albumより】

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     創作文・「美しき日々・・~それから・・~Beautiful days」③

ヨンスの日課は、普通の主婦と同じである。
妹のミンジは大学に通い、夫のミンチョルは会社へ出かける。
義父のソンチュンは、朝食後には決まって外出していた。
ヨンスに気を使ってのことだろうが、ソンチュンは、仕事をやりたいと思っていた。
そして、少しでもミンチョルの力になってあげたかった。
しかし、仕事もそう簡単に見つかるはずがなかった。
力仕事はしたことがないし、営業もやりたくはなかった。
どこかの工場で、話すことなく、黙ってできる仕事はないものかと探し歩いていた。

「お父様、今日はお昼ご飯には帰ってきてくださいね。
 一緒にたべましょう・・。」
出かける父の背中に、そう優しく声をかけた。
それでも、少し微笑んだだけで出かけていった。
みんなが出かけると、ヨンスは片付けと洗濯を済ませる。
それから、近くを少し散歩することもある。
遠出をして、ついでに買い物をして帰ることもある。
正午少し前に、家に帰ってくると、玄関の前に誰かが立っていた。
「ソンジェさん・・!」
そこにたっていたのは、ミンチョルの弟のソンジェであった。
「ヨンスお姉さん・・。」
ソンジェもミンジと同じように、ヨンスのことを「お姉さん」と呼んでいた。
ミンチョルとソンジェは、実の兄弟ではないのだが、ヨンスの病気が発覚したころから、
お互いを認め合い、本当の兄弟のような付き合いになっていた。
「いいお天気だったから、お散歩のついでにお買い物してきたのよ。
 お昼まだでしょう?
 キムチチャーハン作るわ・・・。」
ヨンスは嬉しそうに玄関の鍵を開けて、ソンジェを中に通した。
「お父さんは・・?」
「毎日、出かけられるの。お仕事を探しているみたいなのよ。
 それでも、ミンチョルさんは働く必要はないといっているわ・・。」
「兄さんに、申し訳ないと思っているんだろうね。」
ヨンスは、テーブルに冷たいお茶を出した。「座って・・・すぐに、作るわ。」
「ヨンスさん・・こんなに狭い部屋で窮屈じゃない?」
「いいえ・・大丈夫よ。家族が一緒に暮らせたら、広さなんて関係ないわ。」
ヨンスは楽しそうに、チャーハンを作り始めた。
「手伝うよ。」
「いいわよ。座ってて・・。」
「チャーハンは僕の方が上手なの、ヨンスさんが知っているじゃないか。
 お姉さんが座っててよ。」
結局、ソンジェがキムチチャーハンをこしらえた。
「どう・・? おいしい?」
「ええ・・ソンジェさんのキムチチャーハンは、ほんとにおいしいわ。」
ふたりは、テーブルで向かいあってチャーハンを食べた。
「体のほうは、もうなんともない? 気分が落ち込んだりとかしない?」
「心配しないで・・・。すごく調子いいのよ。
 半年間も入院していたなんて信じられないくらいよ。
 少し太ったかしら?」
幸せな表情が、ソンジェにはまぶしかった。
愛しくてたまらなかった人・・・ヨンス。
見つめていると、今でも涙がこみ上げてくるようだ。
「全然・・・太ってはいないよ。
 顔色もいいし、元気そうでよかった。
 少しでも気分悪くなったときには、すぐに横になるんだよ。
 無理してはいけないよ。貧血はまだ、よくなっていないんだから・・・。」
「本当に、大丈夫よ。ソンジェさんもミンチョルさんも心配相なのよ。
 少しずつ、生活に慣れてきたら、また、アトリエで働かせてもらおうかと考えているの
 よ。
 今、とても絵が書きたいの。」
「仕事をするなんて、それこそ、兄さんが許してはくれないだろう。」
「どうにか、説得してみるわ。」
嬉しそうに笑う表情は、今までに見たこともない美しいヨンスだった。
「そうだ・・。ひとつ、いい知らせがあるんだよ。
 セナが、施設慰問をすることになったんだよ。
 ずっとセナが望んでいたことだったんだけど、あまりの忙しさで、延期になっていたんだけど、もうすぐ実現するようなんだ。」
「まぁ・・どこに?」
「どこだと思う・・・? 天使の家・・!」
ヨンスの目が、いっそう大きくなって潤んでいた。
「私も一緒に行きたいわ。ね、お願い、そのときは、一緒に連れて行って。」
「どうしようかな・・・?」
ソンジェは、意地悪そうな目で、ヨンスを見た。
「ヨンスさんが、働きたいなんて無理なことを言わなかったら、連れて行ってあげてもいいけど。」
「まぁー、意地悪ね・・。でも、本当に日程が決まったら教えてね。
 セナも大喜びでしょう・・?」
「今から、持って行くお土産を買い込んでいるよ。」
「わぁ・・・懐かしいわ・・。何年ぶりかしら・・・。」
そのとき、玄関の開く音に気づいた。
入ってきたのは、ミンチョルだった。
「あなた・・・お帰りなさい。
 ソンジェさんが来て下さったのよ。」
ミンチョルは、ふたりの笑い声を玄関で聞いていて、どこかさびしそうな表情をした。
「ああ・・・。
 急に出張に出ることになって、着替えに来たんだ。」
そういうと、寝室に入っていった。
ヨンスも慌てて、後から寝室に入った。
「どちらに出張ですか?」
「仁川にある音楽スタジオへ・・。人と会うことになって。」
背広とネクタイを替えた。
「セナが天使の家を訪問するんですって。
 私も行きたいわ。ね、いいでしょう?」
「君は、病み上がりなんだ。あんな遠いところまで、だめだ。」
「・・・遠くないわ。大丈夫よ。ね、いいでしょう?」
「とにかく、今は無理だ。我慢するんだ。そのうちに、いつでも行けるようになるから・・。」
ミンチョルは、バックの中身を調べながら、必要な書類やCDROMなどを入れた。
「帰ってきてから話そう。」
そういい残して、出て行った。
「ソンジェ、また今度ゆっくりしたときにでも、来てくれよ。」
ミンチョルはそのまま、出かけた。
ミンチョルの会社であるMIDASは、営業用の車は、まだ一台しかなく、それには、なるべく渉外にでる部下たちに回していたが、今日はミンチョルが使っていた。
その車のエンジンを思いっきり吹かせて、アパートを出て行った。
「・・・お姉さん・・もうそろそろ、帰るよ。」
寝室での会話を聞いてしまって、少しためらいながらソンジェが言った。
「ええ・・・ごめんなさいね・・。」
少し潤んだ瞳が哀れに感じるのは、やはりまだ、ヨンスのことを愛している証拠なのだろうか。
ヨンスにとって、ミンチョルは絶対的なひとであり、ダメだ。といわれれば、それはダメなのだ。
あの人ほど、私を愛してくれている人はいないのだ、逆らえることなんてできなかった。
それでも、ソンジェが言ったセナの施設慰問は、ヨンスにもぜひ、見ておきたいことであったし、それが、天使の家だというのであれば、なおのことである。

ミンチョルの思いはそれとは少し違っていた。
ソンジェは、自分がいない時間を知って尋ねてきたのではないか、まだ、ヨンスのことが好きなのだろうか?
入院費をだしてもらっていることを、気にかけていた。
早く返さなければ・・・

「お姉さん、どうしてさっき、兄さんに、もう体はだいじょうぶだから・・・と言わなかったの?」
帰り際、靴を履きながらそう聞いた。
「・・・あの人の前では、なにも言えなくなってしまうの。
 時々、怖くなるの・・・。
 私のこと、嫌いになったらどうしようって。
 結婚する前にもそう感じていたの。
 嫌われることがこわくて、それでなにも言えなくなってしまうの。
 ミンチョルさんがだめだといったら、行けないわ・・・。
 残念だけど、今回行けなくても、きっと、その次には行けると思うわ。
 そのときには、誘ってね。」
さびしそうに話すヨンスが、とてもかわいそうでソンジェ自身も辛かった。

ミンチョルが帰ってきたのは、夜も深まっていた時間だった。
食卓のテーブルで、うたた寝をしていたヨンスは、玄関の開く音に気づいた。
「・・・おかえりなさい。」
「起きていたのか?寝ていていいんだよ。」
「夕飯は? ワインもありますよ。」
ヨンスは、かいがいしく夕飯の支度を始めた。
「いや、食べてきた。」
「そう・・・。」
ミンチョルは、寝室に入ると着替えを始めた。
上着を脱ぎながら、パソコンを開いていた。
そばにいるヨンスのことなど、あまり気に留めることなく、ネクタイを緩めながらも、目は、パソコンから離れることがない。
「ソンジェさんが、お昼にキムチチャーハンを作ってくれたのよ。
 すごくおいしかったわ。
 いつか、家族みんなでお食事しましょうか?
 お父様も、ソンジェさんと会いたいでしょうに・・。」
「・・・君は、昼間誰もいない家に、ソンジェを入れたのか?」
ミンチョルは、鋭い目つきでヨンスを見た。
まるで、獲物を捕らえた蛇のように、ミンチョルの視線から逃れることはできなかった。
「ソンジェさんは、私の体を心配してきてくださったのです。
 何もやましいことは、ないです。 
・        ・・あなたの弟じゃないですか・・・。」
「実の弟ではないよ。
 ソンジェは、まだ、君のことを思っている。
 そうでなければ、みんなが出かけた隙に来るはずはないだろう。
 セナの施設慰問のことも、僕に話してもよかっただろう。
 それを、君だけに特別にはなすなんて、変だとは思わないか?」
「あなた、どうしてそんな考え方をするの・・・?」
「君も、男の心を揺るがすような態度をとっているんじゃないのか?
 もう、ソンジェとは、ふたりっきりで会うんじゃないよ。」
「・・・わかりました・・・。」
それ以上、何も言えなかった。
私のことを思って言ってくれている言葉なのだ。
私を大事に思っていてくれる証拠なのだから・・・それにしても、胸の奥が痛かった。

寝室をでると、台所の片付けをした。
ミンチョルが帰ってきたら一緒に食べようと思って作っていた料理は、なにも手をつけずに片付けてしまった。
洗い物を終えると、お風呂に入り、ベッドに先に休んだ。
パソコンで仕事をしているミンチョルに背を向けて寝ているヨンスを見ると、泣いているのか、時々肩が小さく揺れた。
ミンチョルは、小さくため息をつくと、強く目を閉じて自分の言った言葉を後悔していた。
「・・・ヨンス、すまない・・・。
 つい、ソンジェにやきもちを焼いてしまったようだ・・・。
 天使の家は、君にとっては実家のようなものなんだから、いつでも行っていいんだよ。
 だけど、ソンジェと一緒に行くことが、悔しかったんだ。
 日程があえば、僕も一緒に行くよ。
 行ってもいいかい・・?」
「ほんとに?  一緒に行ってくれるの?」
ヨンスは上体を起こすと、涙で潤んだ瞳でミンチョルを見つめた。
「ああ、一緒に行こう。
 君の育ったところを見ておきたいよ。」
ヨンスを強く抱きしめながら、自分の愚かさを憎んでいた。
「・・・あなたは、今日私に冷たいことを言ってしまった、と後悔していたでしょう?
 私のことで、思いわずらわないで・・・。
 あなたの重荷にはなりたくないの。
 あなたが私に言った言葉で、あなたが悩んでいることが私には辛いの。
 いつも、あなたのいう言葉のとおりにしますから、だから、私を重荷に感じないでください。
 あなたが、私のことで悩んでいるかと思うと、その方が辛いの。
 最後には、私のことが重くてしょうがなくなって、捨ててしまいたくなってしまったら、
 私は、一人では生きていけないの・・・・。
 あなたの言うとおりにしますから、だから、私のことで悩んだり苦しんだりしないで。
 お願いだから・・・・。」
君はなんて強い女なんだ・・・こんな愚か者を受け入れてくれるなんて・・。

翌日、ミンチョルはソンジェと会い、昨日の不躾を詫びた。
そして、セナの施設慰問にヨンスを連れて行ってほしいと頼んだ。
それと、借りていたヨンスの入院費をすべて返済した。
「兄さん、これだけのお金をどうやって?」
「時計を売ったんだよ・・。」
少し笑いながら、左の腕を指差した。
いつも、腕にしていたスイス製の腕時計がなかった。
「あれは、兄さんが大事にしていた、フランク・ミュラーの腕時計じゃないか?」
「これで、僕の資産はなくなった。しかし、すぐに稼げるようになるよ。」
これが、一人の女性を愛する姿なのだろう・・・。
すべてを投げ打ってでも、守り貫こうとする姿・・。

それから、一ヶ月もたたないうちに、天使の家を訪問することができた。

                        ④話につづきます。





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3話は、いかがでしたか?
夫婦について、もっと研究しないといけませんね・・・。
4話では、ヨンスの出生が明らかになります。
ヨンスの母もまた、命を懸けた恋愛をし、産んではいけない子どもを生んでいた。
それが、ヨンス・・・。
真実を知っていくミンチョルは、より深くヨンスを愛します・・・。

この創作文は、私の空想の物語です。
どうか、みなさまの夢をこわすことがありませんように・・・。
                           Maria chris



댓글 '1'

ijalyf

2010.03.21 20:56:37

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