創作文・「美しき日々・・~それから・・~Beautiful days」⑦

       maria chrisです。
  創作文「美しき日々」の続編をUPします。
  この物語は、私の想像の作品です。
  どうか、みなさまの夢を壊すことがありませんように・・・・。


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ミンジが、パリに留学してから、一月がたった。
その間に、メールがきて、すごく明るく広いアパートに入ったことや、
韓国の友人ができたことや、絵の勉強よりもフランス語を覚えることが大変なことなど、
いつも楽しそうな近況を報告してくれた。

ある日の夜、ヨンスは帰りの遅いミンチョルをアパート近くの公園のベンチに腰掛けて待っていた。
その姿を遠くから見たミンチョルは、走ってヨンスのそばへ来た。
「ヨンス・・・どうしたんだ?」
「おかえりなさい・・・待っていたの。」
ミンジがいなくなり、家には父のイ・ソンチュンがいるが、夕飯がすむと、自室に入ってしまう。
一人になったヨンスは、テレビを見ても本を読んでも、一日の退屈をまぎらわすことはできなかった。
「外が涼しいわ・・・。」
ミンチョルの腕を取ると、ゆっくり歩き出した。
「ヨンス、退屈なら、アトリエに行ってみる?」
それは以前に、アトリエで絵の指導をしてくれないかという話があったことを話していたからだ。
「ほんと?」
「うん、だけど、週に3回以上はだめだよ。
 絶対に、無理しないこと。」
「ええ・・・ありがとう。」
それからのヨンスの毎日は、少し変化が出てきた。
一日置きにアトリエにアルバイトに出ることになった。
朝も、10時から午後の3時まで、無理のない時間帯と少人数の生徒を受け持った。
時々、ミンチョルと待ち合わせて、外で食事をすることもあった。
それは、まるで恋人同士の頃のように、毎日がわくわくと胸躍らせていたあの頃に似ていた。
初めての給料を頂いたときも、なにか、ミンチョルに買ってあげたいと思った。
偶然にもその日、セナから久しぶりに電話があった。
珍しく仕事がなくて、お昼でも一緒にしよう、という電話だった。
もちろん、ナレも一緒である。
近くのレストランで待ち合わせをして、食事をした。
「ヨンス、ひさしぶり・・!
 元気だった? プリンスに可愛がってもらってる?」
「ええー。それは、毎晩・・・。」
「すごい・・・! 元気そうでなにより。」
ナレは、ヨンスに抱きついて頬ずりした。
「ミンチョル社長に昨日あったの。ばったり、テレビ局で・・。
 その時に、ヨンスお姉さんがアトリエで働きだしたこと聞いたのよ。
 なんだか、明るくなったような気がする。
 お化粧もちゃんとしちゃって・・・。」
「今日、お給料日だったのよ。
 おごるわ。」
「いいよ。私のほうが、お金持ってるんだから、私が出すよ。
 それより、お兄さんになにか買ってあげなきゃ・・。」
「私もそう言ったんだけど、なにもいらないって言うのよ。
 どうせ、少ないお給料だもの、なにも買えないって思っているのね。」
「自分の服でもかいなよ。お姉さんのお金なんだし・・・。」
「ううん・・・最初のお給料では、あの人のものを買うって決めているの。
 なにがいいかな・・?
 最近ね、腕時計をしていないの。
 きっと、失くしたんだわ・・・とても、大事にしていたのに・・。」
「・・・レアものだったのにね・・。」
「知っているの?」
セナは、はっとした。
腕時計を売って、病院代を払ったことは、ソンジェから口止めされていたのに・・。
横から、ナレがセナを突付いた。
「そうだ、ヨンス。今度、セナがドラマに出るんだよ。
 まだ、半年も先のことだけど、この子にできるかね~・・・」
その慌て振りは、いつものナレの隠し事があるときのポーズだ。
「なにか、あるの? あの人の腕時計・・。
 ね、教えて・・?
 私だけが知らないなんて、なんだかいい気持ちしないわ。
 教えて・・・。」
意を決したように、セナが「うん、言っちゃうよ。隠すことないと思うんだよ。」と言った。
「でも、ソンジェさんに叱られるよ。」
「ソンジェさんのことなの?」
セナが、姉の顔を見つめて話し出した。
「お兄さんね、腕時計を売ったの。あの時計は、アメリカに留学していたときに、
 大金をはたいて買った、それはすごいプレミアもので、
 車が買えるくらいの代物だって。
 とっても大事にしていて、ビクトリーが倒産したときに、家が差し押さえになったとき、
 身に着けていたから、持ち出せたものなんですって。
 でも、お姉さんが入院したとき、それは高い入院費を請求されたとき、
 ソンジェさんが出してくれていたの。
 全快祝いだから、返さなくていいと言って。
 お兄さんにとって、ソンジェさんはやっぱりライバルなのよ。
 いつか、お姉さんがソンジェさんの方に惹かれてしまったら、という思いがあって、
 全部を一度に返したらしいの。
 その時から、腕時計をしなくなったのね・・・。」
ヨンスの目から、次々に涙があふれてきた。
そうだったのか・・・私のために・・・。
胸が締め付けられるせつなさを感じた。
「・・・そんな大事なものを・・・私のために・・。」
ナレは、「ほら、泣いちゃったじゃない・・。」と言って、セナを突付いた。
「ヨンス・・・泣かないで。
 デザート食べようか? ヨンス、プリンすきじゃない。これ食べよう。」
「・・・私の少ないお金で、腕時計買えるかしら?」
「ええ。それは、フランク・ミュラーより、すごい高価なのが買えるわよ。」
その帰りに、デパートで腕時計を買った。
ミンチョルの腕には、似合わないかもしれない安物だったが、ヨンスにとっては
あるたけのお金をはたいて買った。
セナがカンパすると言ってくれたが、それはいいと断った。

家に帰ると、いつもより豪華な食事を準備した。
ワインを出し、テーブルには花を飾った。
父に先に食事をとってもらうときも、ワインを注いであげた。
「今日は、誕生日かい?」
「いいえ、アトリエで初めてお給料をもらったんですよ。
 ステーキも焼いたんですよ。
 たくさん食べてください。」
「わしにまで、もったいないな・・・。」
「お父様に、たべてもらいたかったんですよ。
 召し上がってください。」
嬉しそうにワインを飲む父に、サラダを注ぎ分けた。
「ミンチョルは、相変わらず遅いようだね。」
「ええ・・ケイングループに入ってからは、つぎつぎにお仕事があるようですよ。
 何人かの歌手のプロデュースも始めたらしいんですよ。」
「やっと、起動に乗り出したな・・・。」
ミンチョルが帰ってきたのは、とうに日付が変わっていた時間だった。
テーブルに顔を伏せて眠り込んでいたヨンスは、玄関の開く音に目が覚めた。
「お帰りなさい。」
「ただいま、寝てていいのに・・・。」
「今日は、私の始めてのお給料日だったから、奮発したのよ。」
飲んで来たのか、少し目が赤い。
「水だけでいいよ。」
背広をぬぐと、床に寝転んで、眠そうな顔をしていた。
「あなた、ここに寝ないで。お部屋にいきましょう。」
ヨンスの肩に抱かれて寝室に入ると、そのままベッドに倒れこんだ。
「今日は、またひとりのCDデビューが決まって、機嫌がいいんだよ。
 その祝賀会をやったんだ。
 ヨンスも、呼べばよかったな。」
ヨンスは、ミンチョルの靴下を脱がしながら、「私は、いいです。」と微笑んだ。
「あなたに、プレゼントがあるんですよ。」
そばの机においていた小さな箱の包みを出した。
「はい。・・開けてみて。」
寝ているミンチョルの顔の上に差し出した。
「うん?  なにかな・・?」
リボンをはずしながら。包みをはずした。
ケースにはいっているのが、腕時計だと気づくと、はっと体を起こした。
「これは・・。」
「あなたの腕時計に比べると安物だけど、私の初任給の全部よ。」
思わず、ヨンスを抱きしめた。
「・・・ありがとう。」
「私のほうこそ、ありがとう・・・。
 私の病院代を支払うために、時計を売ったんでしょう?」
「僕の稼ぎが少ないから、それは仕方ないことだったんだよ。」
「私、どこにも行かないわよ。
 ソンジェさんにやきもちやいたりしないで・・・・。」
ミンチョルは、うなずきながら、ヨンスの頬を優しく撫で、ヨンスをベッドに横にすると、服を脱がし始めた。
と、その手をとめると、「体は大丈夫? きつくない? 熱は出ていない?」と聞いた。
いつのときも、ヨンスの体が心配でたまらないミンチョルなのだ。
「平気よ。すごく元気よ。
 赤ちゃんだって、何人も産めるくらい・・。」
そういって、ヨンスは、しまった、と思い、ミンチョルの顔を覗き込んだ。
「・・・ごめんなさい・・。」
その声を遮るように、キスをした・・・。
ミンチョルの優しい愛に包まれながら、何度も喜びの中に入っていくヨンスは、全身で愛を受け止めていた。

いつ朝日が昇ったのか、ヨンスが目が覚めたとき、横にいるはずのミンチョルはいなかった。
ふと、時計をみると、もうとっくに出勤時間は過ぎていた。
あわてて起き出して、着替えてリビングにいくと、父がベランダにいて、洗濯を干していた。
「お父様、すみません・・・。私がやりますから。」
「いや、いいよ。それで、もうめまいは良くなったのかい?」
「あ・・ええ・・。」
きっと、ミンチョルがヨンスを寝かせておくために、そう父には話したのだろう。
「アトリエが休みの日くらい、ゆっくり寝ていればいいよ。」
寝室にもどり、ミンチョルに携帯電話から電話をかけた。
「あなた、どうして起こしてくれなかったんですか。」
「気持ちよさそうに寝ていたから・・。
 それに、今日はどうせ、アトリエも休みだろう。
 ゆっくり寝ていればいいよ。
 夕べは、あまり寝ていないだろうし・・・。」
「それは、あなただって・・。」
「今日は、早く帰れるだろうし、そろそろ、チゲでも食べたいね。」
「ええ、今夜はチゲにしますね・・・。」
「腕時計、ありがとう。ぴったりだよ。」
嬉しそうに話すミンチョルの声に、ヨンスも嬉しかった。
夕飯は、豆腐チゲを準備した。
夕方になると、父は決まって1時間ほど散歩にでる。
すっかり夕飯の仕度は整っているが、ヨンスは部屋にはいると、キャンパスの前に座り、
絵を描き始めた。
夕焼けを描いていたが、その中にどうしても、小さい子どもを描いて見たくなり、男の子を描いた。
丘の上に座っている父親と小さな男の子・・・そばには、自転車が大きいのと小さいのが止まっている。
親子で、夕日を眺めているのだろうか・・・?
クレヨンで一気に書きあげた。
夕日が目にまぶしいくらいに、美しい。
書きあげた絵を手に取ってみていると、その子の笑い顔が見たくなった。
そして、新しい画用紙に描き始めた。
目が細くなるほどに、笑いかけているその男の子は幸せそのものに見える。
描いているヨンスまで、つい、微笑んでしまうくらいに・・・。
部屋の明かりがついたことで、はっとわれに還ったヨンスはうしろにミンチョルが立っていることに気がついた。
「おかえりなさい・・ごめんなさい、気がつかなくて・・」
思わず、絵をファイルの中に隠してしまった。
「すぐに、夕飯食べられますよ。」
ミンチョルは、絵に気づかないふりをしながら、着替え始めた。
それでも、さっきのヨンスの顔を思うと、胸が痛かった。
幸せそうな表情で絵を描いているヨンスは美しい。
しかし、最近の絵は子供の絵が多い。再び 、子供に対する思いが大きくなっていくようでつらかった。
もしも、ヨンスに子供ができて、その子供を生むために命を落とすようなことになったら・・・。
ぞっとするほどに、怖かった。
会社が倒産したときよりも、自分の父親が人殺しだと知ったときよりも、ヨンスが白血病だと宣告されたときの方が何倍もつらく悲しく苦しい思いをした。
もう死の恐怖を味わいたくなかった。
ヨンスにも、あれほどの苦しみを与えたくなかった。
ヨンスを苦しめるものは、たとえ、自分の子供でも許したくないとまで思っている。
「ね・・・私が働き出したら、少しは生活も楽になるわ・・・。
 赤ちゃんがひとりいても、大丈夫だと思うの・・。
 今まで以上に、つつましくすれば、生活費は何とかなると思うの。」
ヨンスは、ミンチョルの背広をハンガーに掛けながらさりげなさを装って話す。
「私ね、毎日でもアトリエに働いてもいいと思うのよ。
 それで、お金をたくさん蓄えておいて、出産費にするわ。
 ね、それなら・・」
「前にも、話したと思うが、僕は子供は嫌いだ。
 もう、その話はしないでくれ。」
「でも、あの頃よりは、少しは貯金もできているし・・」
「ヨンス・・!
 同じことを言わせないでくれ。」
「・・・ごめんなさい・・。」
食事の間も、ミンチョルはヨンスと目をあわせようとはしなかった。
さっきのことだと思いながら、ヨンスはわびた。
「・・・あなた、さっきはごめんなさい・・。」
「いや・・いい。」
ミンチョルはつらかった。
ヨンスが愛しくてたまらなくて、彼女をみると泣いてしまうようでつらかった。
それだけの言葉を言うと、ミンチョルは部屋に入ってしまった。
ひとりテーブルに取り残されたヨンスは、思わず涙が頬を伝わった。
リビングの壁に飾っている『家族の肖像』は、幸せな家族の絵だ。
両親のそばで、ぴったりくっついて幸せそうな顔をしている子供・・・。
「・・・私の将来の夢は、この絵のように、平凡だけど幸せな家庭を作ること。
 もしも、子どもがもてたら、温かい家庭をもちたい・・。」
結婚前に話していた、ヨンスの夢の話が耳に蘇った。
「つまらない夢でしょう・・。」そういって、恥ずかしそうにうつむいて微笑んだ。
パソコンを打つ手も、力が入らず、あの頃のヨンスのことを思い出していた。
ヨンス・・・。
ドアを開けて、ヨンスの姿を見ると、やはりテーブルについたまま、小さく肩を震わせながら泣いていた。
今そばに行って肩を抱いてやると、悲しみが2倍になるようで怖かった。

その日の夜、ヨンスは熱を出した。
体のだるさに目を覚ましたヨンスは、全身汗をかいていて、自分が高熱をだしていることに気づいた。
そっと、ベッドから出ると、キッチンに行き、タオルを濡らして顔と首筋をふいた。
病院からもらっていた薬を飲むと、そのままテーブルのいすに腰掛けた。
「なんて、体が弱いんだろう・・。」
つらさと悲しみの中、涙があふれてきた。

そばにヨンスが寝ていないことに気づいたミンチョルはすぐに明かりのついているキッチンに来た。
テーブルに顔を伏せて泣いているヨンスの姿が哀れでならなかった。
「・・・ヨンス・・」
そっと、頭を撫でた。
「ヨンス、熱があるんじゃないのか?」
「大丈夫よ。さっき、薬飲んだから、すぐに良くなるわ・・・。
 ごめんなさいね、起こしてしまって・・・。」
「 ベッドに、行こう。」
ベッドに横になるヨンスの額に、冷たく濡れたタオルをあてた。
「・・・あなた、もう、休んでください。明日も、お仕事があるんですから・・・。」
「・・・うん・・。」
「私は、どうして、こういつまでも、体が弱いのかしら・・・
 もっと、強くなりたいわ・・・。」
ミンチョルは、黙ってヨンスの手を握りしめていた。
「こんな病弱な奥さんじゃ、あなたも楽しくないでしょう・・・。
 もっと、元気な奥さんだったら、きっと、もっと幸せだったんじゃないかしら・・・。」
ミンチョルは、ヨンスの顔を撫でながら優しく話した。
「どんな時の君でも、僕は幸せだよ。安心して・・・。」
「あなた・・・後悔していない・・・?
 私と結婚したこと・・・。」
「ヨンス、僕は幸せだよ。君さえそばにいてくれたら・・・。」
「あなたに、申し訳なくて・・・。
 あなたを幸せにしてあげたくて、あなたと結婚したのに、
 まるであなたのことを、不幸にしていくようで・・・。」
「ぼくは、毎日君といることができるだけで幸せなのだから、申し訳ないとは思わないでいいよ。むしろ、感謝している・・・。」
「・・・ありがとう・・」
ヨンスは静かに目を閉じた。
その目からは、いく筋もの涙がこぼれていた。

                              8話に続きます
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