創作文・「美しき日々・・~それから・・~Beautiful days」⑮

夜の食事を、一階にあるレストランでとった。
ステーキをおいしそうに食べるミンチョルの姿に刺激されたのか、ヨンスもすこし分けてもらって食べてみた。
「おいしい・・。」
幸せそうに微笑むヨンスが、美しくまばゆく見える。
「もうひとつ、どう? 」
皿にわけてあげながら、ミンチョルもうれしかった。
このまま、元気になってくれたら、ひょっとして、退院できるかもしれない。
そうすれば、お互いにもう、さびしくて泣くことがなくなるのではないか・・・?
「あまり、食べ過ぎると後が怖いわ。」
くだものを少しずつ食べながらも、ミンチョルから目が離れない。
いつまでも、見ておきたかった。
ヨンスの食後に飲むビタミン剤と鉄剤の量は、それは半端ではなかった。それだけで、満腹になった。

部屋に戻ると、見たかった映画のDVDを一緒に見た。
愛する人がそばにいてくれる。
当たり前だとおもっていたことが、今はこんなに貴重な時間に感じるとは、ふたりにとってこの先にも経験することではないだろう。
そっと、手をつないでいるだけで、何も話さなくても思いが伝わる。
夫婦とは、そういうものだろう・・・。
「明日は、何をする?」
「あなたは、何がしたいですか?」
「うん・・・・こうして、寝ている・・・。」
「まぁ、・・・。
 それも、いいですね。」
ミンチョルの腕枕に自然と眠るヨンスにとって、至福のひとときであった。
「君が眠るまで、僕は起きているから、安心して眠っていいよ。」
その言葉通り、ヨンスが眠りにつくまで、ミンチョルはヨンスを抱きしめてくれた。
時々、お腹の子供が動くのがわかる。
ふたりにとって、新しい生命の誕生がどれほど嬉しく、これからの未来が楽しみでならないはずなのに、
もしも・・・というミンチョルの不安は、隠すことができないほどに、不安が心いっぱいに占め、それを悟るヨンスもつらかった。

神様、私は信心深くない人間です。
どうか、そのことを謝ります・・・ですから、ヨンスを、僕から遠ざけないでください。
お願いです・・・。
僕に危害が及んでも、ヨンスを苦しめることは、どうかしないでください。
お願いですから・・・。

いつもいつも、ミンチョルの願いは、ヨンスのことばかりであった。
静かな寝息を立てながら眠るヨンスが、遠くへ行ってしまうなんて、ミンチョルにとっては、自分が死ぬことよりもつらかった。
どうか、生まれてくる子供によって、二人に幸せが舞い込んでくるようにと、祈ることしかできないミンチョルだった。

ちょうど、その頃、ミンチョルと同じような思いで、神の救いを求める父の姿があった。
父の名前は、ケイン・クラウディオ。韓国名を、キム・ハンスという。
この父にも、ミンチョルと同じようなつらい経験があった。
心より愛した女性と出会ったのは、教会の青年会有志で行っていた病院の慰問先であった。
結核を患っている多くの患者のなかに、ヨンスの母であるソン・キョンファがいた。
幼い頃から、入退院を繰り返しているというキョンファは、誰もがあこがれるほどの、美貌を持った少女だった。
青年会のメンバーが聖歌を歌っているときも、部屋の隅でひっそりと聞いている姿は、今もケインの脳裏に焼きついている。
キョンファに一目ぼれする人は数多かった。
ある日の慰問のときに、キョンファは完治して退院したことを知った。
家を訪ねてキョンファと会い、交際を申し込んだ。
しかし、それは病気を患っているキョンファにとって、彼の重荷になることだと、交際を断った。
それでも、ケインは何度となく、たずねてきては、キョンファの身の回りの世話をし、できる限りのことをしてあげた。
キョンファの父は、軍人であったため、また、英語が話せるということもあってか、機密部隊に入ってからは、帰ることがなくなり、
音沙汰がなくなり、月日だけが過ぎ去っていた。
北朝鮮に拉致されたといううわさが広がり、また、亡命したのでは・・・といううわさまでが飛び交うと、キョンファと母親は、住み慣れた家をはなれ、父を捜し求めて、北との国境でもある集落に移り住み、そこで父の消息を尋ね歩いた。
年をとっていた母は気苦労が重なり、あっけなくこの世を去り、ただひとり残されたキョンファは、近所の主婦たちの親切な心使いのなか、小さな食堂を手伝い、父の消息を待ちながら細々と生活を続けた。
キョンファを探し続けたケインは、兵役に行く前に婚約したい、と結婚を申し込む。
2年間の兵役が済めば、必ず迎えに来るから・・・・その言葉を残して、ケインは立ち去った。
そのときに、持っていてほしいと渡された結婚指輪は、金のおそろいの指輪であった。
2年待てば、あの人は迎えに来てくれる・・・そして、結婚できるのだ。
その夢だけを抱いて過ごしていたキョンファは、妊娠していることに気づいた。
助産婦をしているという主婦から、中絶するようにと勧められた。
病み上がりのキョンファにとって、お産など耐えられるはずがないと・・・・。
しかし、キョンファは、妊娠いていることをひたすら隠し、働き、子供を生むことにした。
誰にも看てもらえずに、たったひとりでお産をした。
生まれた子供は、女の子・・・・結婚式に着るつもりで作っていた、ただ一着だけの礼服であるチマ・チョゴリを、形見として残し、キョンファは亡くなった。
そばにあった結婚指輪は、赤いケースに入ったまま、子供の寝ているそばに置かれていた。
そして、子供のお腹には、血で「キム・ヨンス」と書かれていた。
2年の兵役が住み、愛するキョンファの元をたずねたときには、キョンファが住んでいた集落がなくなっていた。
区画整備が施され、当時、ここに住んでいた住民は、ばらばらに国営のアパートに引っ越したという。
ケインは、それから、何年もかかり、キョンファを捜し続けた。
キョンファが手伝っていたという小さな食堂の老婆を捜し求めた。
しかし、老婆の記憶は定かではなく、キョンファをよく覚えていないという・・・が、あの頃、手伝ってくれていた色が白くて綺麗な女性が、あるときから、急に来なくなり、うわさでは病気で死んだ、ということを思い出した。
ケインは、ショックだった。
ひょっして、そういうことも考えられたが、確かに病気は完治していたのだ。
結婚を夢見ながら、これからの日々を暮らします、と彼女は幸せそうに話したのだ。
何度か手紙を書いた。
しかし、返事がかえってくることはなかった。
そのときには、もうすでに、亡くなっていたというのか・・・。
ケインは、兵役に出兵していたぐらいの年月を、キョンファを訪ね歩いた。
その後、悲しみに耐えるために、大学で学んでいた美術で、フランスに留学をした。
キョンファのいない韓国に帰る気にもなれず、ケインはフランスで師事していた教授の元で、帰化することを決意し、名前をキム・ハンスから、ケイン・クラウディオと改名し、韓国を忘れることにしたのだ。

今でも、キョンファの澄み切った笑い顔を思い出す。
もう少し、私が迎えに行くことが早かったら、キョンファは死なずに済んだだろうに・・・・。
そのことばかりが、ケインの心にはあり、ハングル文字をみるだけで、韓国語を耳にするだけで、キョンファに対しての申しわけなさでその場を立ち去ってしまっていた。

ミンチョルのつらい立場を一番にわかっているケインにとって、娘であろうヨンスを、どうにか、守ってもらいたかった。
二度と後悔することのない人生であるように、ケインは、ただひたすら、神に祈り続けた・・・。

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「美しき日々」コンサートファイナルにいってきました。
幸せそうなヨンスとミンチョルと会えたことが、とても嬉しかったです。
最後の桜の木のシーンで、おふたりがいすに座って、画面を見ておられたとき、
そっと、手をつないでおられたのを見たとき、~幸せになって、よかった・・・~と
感じました。
今日も読んでくださってありがとうございます。
そして、hyunjuさま、coseさま、nalysさま、翻訳しながら読んでくださっているというお話に感動しました。
こんなつたない文章を、楽しみにまってくださっているなんて、本当に恥ずかしい限りです。
悲しい場面が多くて、お許しください。

どうか、みなさまの「美しき日々」のイメージをこわすことがありませんように・・・。
                          maria chris

.





댓글 '8'

miyuki

2005.05.15 15:38:11

maria chrisさま、早速読ませて頂きました。
maria chrisさまの文を読ませて頂いてると、
自然とヨンスとミンチョルの二人の姿が脳裏に浮かぶのです。
まるでテレビを見ているかのように、
『美しき日々』の世界に浸らせて頂いてます。
日曜のちょうど心地いい時間帯に・・ありがとうこざいます。


くっきー

2005.05.15 16:37:40

今回も素敵なお話ありがとうございました。
無事に出産して・・幸せなヨンスとミンチョルにして下さいね!

お忙しいとは思いますが、続きを楽しみに待ってます。

CHIBO

2005.05.15 16:52:27

maria chrisさま
「美しき日々・・~それから・・~Beautiful days」を毎回楽しみしています。
これでもか、これでもかというようなヨンスの不幸は見たくありません。
私の友人も「涙していつも読ませてもらっています」と話していました。
どうか最後は、ハッピーエンドを期待しております。
ジウ姫さまが、ヨンスを演じられたからこそ強烈な印象が私自身
鮮明にのこっています。
次回が、楽しみです。
CHIBO

koba

2005.05.15 16:55:42

午後の穏やかな時に美しいお話を読ませていただいております。
丁度、ZEROのCDを聞いていたところ でして、さらにgood bye がかかっていました。高音の美しい声と、メロディーとこのお話とがよく合っていて、情景が目に浮かぶようです。
ここしばらくは、コンサートの思い出と、”美しき日々” の世界に浸っています。
続きを楽しみに待っております。

meronn

2005.05.15 19:47:41

maria chris様、初めましてmeronnと申します。素敵な物語に又涙しています。
澄んだピアノの音色のBGMにヨンスとミンチョルの物語が悲しく美しく語られて、それはそれは幸せなひと時でございます。幸せ薄いヨンスに最後はどうか幸せになって欲しいと願っております。お忙しいでしょうが、これからも楽しみにお待ちしております。有り難うございました。

miharu

2005.05.15 21:54:31

こんばんは。
今回は、コンサートの後ということもあるためなのか、スライドと音楽だけで号泣状態です。イメージを壊すなんてとんでもないです。ほんとうに「美しき日々・それから」を見てるみたいに毎回読ませてもらっています。そっと手をつながれていたのですね・・・・・うれしくなります。^^いつまでもこの美しき日々がつづきますように・・・・・

aena

2005.05.16 07:21:33

maria chrisさま,はじめまして.
いつも読ませていただいておりました.
私は「美しき日々」が大好きなんです.
ジウさまがヨンスを演じてくださったから・・・
これからも室長とヨンスの「美しき日々」をどうぞよろしく
お願いいたします.

TiYan

2005.05.16 18:50:35

maria様 何時もありがとうございます。
ミンチヨルの大きな深い愛 ヨンスの信頼に応える愛 今回も 涙で グショグシュになりながら 読ませて頂きました。
ジウ姫様と ビヨンホン様が演じなければ これほどの素晴らしいドラマになったでしょうか・・・ (助演の方達も素晴らしい方ばかりですが)
私は 繰り返し「美しい日々」を見ていますが 見終わっても直ぐ 見たくなります。それに maria様の (創作文それから~)を読ませて頂くと ドラマが
続いているかのように錯覚している 私です・・・
此からも どうぞヨンスとミンチヨルが幸せで平凡な生活が送れますように
お願いします。
美しきファイナルコンサート行けなかったので NHkでの 放送を楽しみにしています。
次回作 楽しみに待たせて*頂く日々*を送っています。
乱文にてすみません
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